7月には、多くの地域で梅雨明けを迎え、夏らしい気候となります。七夕、祇園祭に代表されるお祭り、夏の土用入りと、行事が続き、茶席の趣向も完全に夏のものへと変わっていきます。
ただし、いつからどのくらい、茶席で夏らしさを演出するか、実は意外と差があるようです。
梅雨が明ける前には、真夏にも用いるような趣向は避けるという方もいれば、その日のお天気次第で夏らしさに強弱をつけるという方も。
そのようなこだわりをもってお菓子を考えるのも楽しいもの。この7月のお菓子の紹介が、その一助となれば幸いです。
葛焼き
夏の素材の代表の一つである葛。葛粉は葛の根からとれるデンプンを精製した粉で、古くから薬効のある食材として知られています。
葛のお菓子というと、ぷるんと透明でゼリー状のお菓子が思い浮かびますが、葛焼きはそれとは少し異なるもの。葛粉を水で溶かしたものにこし餡を混ぜ、火にかけて練り、型に入れて蒸します。冷めて固まったところで切り分け、小麦粉や上新粉をまぶし、焦げ目が付かない程度に表面を焼きます。
見た目はきわめて素朴なお菓子ですが、葛らしい食感が控えめながら感じられ、口どけもよく、蒸し暑い時期に嬉しいお菓子です。
梅雨明け前でいかにも夏らしいお菓子は控えたいときには、葛という素材とその食感で夏の気配を感じさせつつも、夏になりきらない葛焼きのこの感じが、ちょうど良い具合といえるでしょう。
もちろん、真夏まで使っても喜ばれるお菓子です。
水牡丹
葛のみずみずしさと、その内から透けて見える鮮やかな紅色に、夏の訪れを強く感じさせてくれるお菓子です。
「水牡丹」は、餡を葛で包んだ、葛饅頭の一種。葛饅頭というと赤茶色の一般的な餡を使ったもの思い浮かべる方も多いと思いますが、中の餡の色を変えることで、思い思いに趣向をこらすことができるお菓子です。
そんな葛饅頭のうち、白餡を紅色に色づけて包んだものが水牡丹。百花の王といわれる牡丹の花を、この鮮やかな紅色の餡が表現します。
牡丹は富貴の花とも呼ばれ、縁起の良い花でもあるせいなのでしょうか。花の時期は春ですが、夏のお菓子の定番として、茶席では広く親しまれています。
冷えていると美味しい葛のお菓子ですが、長い時間冷やすと白く濁ってしまいます。特に、水牡丹の場合は、中の餡の色を綺麗に見せるためにも、葛には透明感が欠かせません。
和菓子屋さんでも冷蔵庫に入れることはすすめられないことが多いことと思います。もしも入れるとしても、いただく直前に10分~20分程度にとどめましょう。
その代わり、器を冷やしておくと、器に触れたときの感触がお菓子の涼しさを演出してくれ、より美味しく味わうことができます。
水羊羹
夏の和菓子といえば、お茶をたしなまない方でもすぐに思い浮かべるのが水羊羹。のどごしの爽やかさ、後味の良さから、茶席でも人気のお菓子です。
夏場の贈答品や手土産の定番でもあり、普通の羊羹よりも水羊羹の方がいただく機会が多い、という方も少なくないことと思います。
材料は、寒天とこし餡。寒天をお湯でふやかして、こし餡を混ぜて練り、冷やし固めればできあがるというシンプルなお菓子です。それだけに、餡(小豆)の本来の味が分かりやすく、また、材料の割合などの微妙な加減で味わいが変わってきます。
水分が特に多いお菓子なので、懐紙にとるときは、防水加工をした懐紙を使ったり、硫酸紙や、四つ折りにした懐紙を表面の懐紙の下に仕込んだりすると良いでしょう。
ちなみに、福井県など一部の地域では、水羊羹を冬に食べる風習があるそうです。
七夕の主菓子
最後に、7月の代表的な季節行事である七夕のお菓子に触れたいと思います。
この記事では、例えば水牡丹のように、菓銘を聞いて意匠が思い浮かび、多くの和菓子屋さんで見つけられるようなお菓子を紹介しています。七夕にそのようなお菓子があるかしらと文献をあたったりもしたのですが、見つけられませんでした。
しかしもちろん、七夕の時季にはそれに因んだお菓子が沢山見られます。どのようなお菓子があるか、少しだけ紹介したいと思います。
七夕ですぐに思い浮かぶ意匠は、天の川や短冊でしょう。もう少し控えめな方が奥ゆかしい感じがすると思えば、糸巻き、かささぎ、蟹などが挙げられます。糸巻きは織り姫(織女)の機織りにかかわる道具。かささぎは鳥、天の川の上に群れで翼を広げ、彦星(牽牛)と織り姫が出会うための橋をかけてくれるという伝説があります。
蟹は、蜘蛛を古くは笹蟹と呼んだことに因むもので、蜘蛛は糸をかけることから、機織り、ひいては織り姫に繋がるというものです。織り姫には、笹蟹姫という異名もあります。
お菓子の素材は、色も形も自由に表現しやすい練切を見かけることが多いでしょうか。季節感も演出したいなら、寒天や葛を使ったものがおすすめです。
例えば寒天なら、道明寺や金銀箔で天の川を表現するものなどが多く見られます。寒天の透明感は、見た目にも、夜空、川といった意匠にぴったりです。
茶道の世界だけでなく、広く季節行事として親しまれている七夕、是非お気に入りのお菓子を見つけてみてください。