茶道の楽しみの一つである、お茶会。主催する側でも、客側でも、それぞれに緊張感もありつつ、とても楽しい、まさに「おもてなし」の場面です。そして、お茶会での着物を考えることも、とても楽しいもの。けれど、お茶には独特のルールがあると言われることが多く、迷ってしまうこともあるかもしれません。
お茶会らしい着物といえば、一つ紋付きの色無地か付下げに袋帯が定番。一般的で、大体の場面で安心できる服装といえるでしょう。でもお茶会への参加を重ねると、どうも、
「これ以外の着こなしもありなのでは?」
「もっと色々な着こなしを楽しんでもいいのでは?」
と思うようになることでしょう。けれど、それは大抵、いわゆる「着物の格」としては、定番よりも低くなる着こなし。失礼があっては・・・と思うと、尻込みしてしまうかもしれません。
そこで、今回は、お茶会での定番以外の着物について、どのような場面なら、どのような着物や帯なら、礼を尽くしつつ茶席での着物を楽しめるのか、考えていきたいと思います。
お茶会での定番の着こなし、おさらい
■一つ紋色無地か付下げに袋帯
1. 一つ紋の色無地
一つ紋の色無地は茶人の制服と言われることもあるくらい、お茶席での定番。最初に作る着物として、色無地を勧められたことがある方も多いのではないでしょうか。披露宴等だと、場合によっては少し大人しすぎるかな、ということもある色無地ですが、お茶の世界では「色無地だと地味すぎてちょっと・・・」とはあまりならないのが、興味深いところです。
2. 付下げ
付下げが重宝するという声が多いのは、柄のたっぷり入った訪問着を着る機会は、意外とお茶会で多くないから(初釜等特におめでたい席や、ホテルでのお茶会等たっぷりの柄付けが映える場面には、華やかな訪問着もそれは素敵です)。
付下げの柄の量にはかなり幅がありますが、柄と無地場のバランスが半々から、柄が少なめくらいが使いやすいようです。
※訪問着と付下げは作り方の違いなので、実際は、控えめな訪問着や、柄が大きめ、多めの華やかな付下げもありますが、長くなるのでそこは割愛します。
3. 袋帯
袋帯の中でも、有職文様と呼ばれる古典柄は、お茶席での定番。金糸銀糸の多いパーティや披露宴等に相応しいものよりは、金糸等はやや控えめな、光りすぎない帯が使いやすいと言われています。その点で、特に唐織は、十分に格をそなえつつ金銀糸は少なく、使いやすいとされています。
まず大切なこと
大切なことは、その時、その場面に集まる人たちとの調和。できるだけ、先生、先輩、共に主催または参加する方に、「どのような服装が相応しいでしょうか?」「例えば〇〇でも場に馴染むでしょうか?」と事前に確認するようにしましょう。その返答であまり好ましくないと分かれば、やはり避けるべき。
招待してくださった方は、お客様の服装に注文をつけてはいけないという気持ちから「何でも大丈夫ですよ」「お好きなものをお召しに」と答えがち。自分が客側の場合、主催側の言葉は、その点を差し引いて考える必要があります。
着こなしの格としては低くても馴染みやすい場面、つまり定番よりは「少し砕けた」着こなしでも違和感がない場面の例は、大寄せのお茶会、社中・身内のみの集まり、何かのイベントに合わせてお茶をふるまう「添え釜」、屋外での「野点て」等。
なお、お茶券の金額とそのお茶会の格等は必ずしも一致しませんが、あえて目安をいうのであれば、5千円以下というのが一つの目安になるかもしれません。
お茶会らしく見える装いとは
「一つ紋の色無地や付下げでなく小紋」「織りの袋帯でなく染めの名古屋帯」等、一つ一つを見るといわゆる着物の格としては下がっても、全体としてお茶会らしい着こなしに仕上げることは大切です。一概にはいえないのですが、あえて、くだけて見えない、いわゆる「よそ行き感のある」「綺麗な」装いに仕上げる要素を挙げてみます。一つの参考になさってください。
■素材に光や艶がある
金銀糸や金銀の箔をところどころに使っている、生地なら縮緬よりは光沢のある綸子等、素材に光るもの、艶のあるものが使われていると、よそ行き感のある着こなしになります。
※金銀糸をふんだんに使った着物や帯は、初釜等特に晴れやかな場面以外ではお茶席で
はあまり多くないので、注意。
■柄が古典的
着物の世界では、古典的な柄は格調高さを感じさせることが多いです。七宝、菱等の続き柄、松竹梅、秋草等の昔ながらの草花の取り合わせ、御所解、檜扇、貝合わせ等源氏物語に出てきそうな風景やアイテム・・・。このあたりは、着物や帯によく使われる柄ですが、お茶席にもなじみやすいものです。
■着物の場合、色彩はどちらかといえば淡い色、明るい色
濃い色だとくだけて見える、ということでは決してありません。しかし、淡い色、例えばパステルカラー等は、着物の世界では「綺麗な」印象を与え、それがよそ行き感に繋がります。時代劇でも、商家のお嬢さんは明るい色の着物、女中さんは濃い目の色を着ていることが多いですが(もちろん、あれは大抵素材も違いますが)、あれをイメージすると分かりやすいはずです。
なお、これは着物の話で、帯には当てはまりません。
■着物と帯の両方の格を下げない
お茶の世界に限らず、着物と帯の組み合わせでよく言われるのは、格を合わせること。もちろん、それぞれの格が違いすぎてちぐはぐな取り合わせになるのは避けたいものです。
しかし、両方を格の低いものにすると、全体の印象から一気によそ行き感が失われて、普段の着こなしのようになってしまいます。例えば、着物に飛び柄小紋を選んだら、帯は染め帯でなく織りの帯にする等、両方をくだけさせないことで、お茶会らしい格が保たれます。
定番以外の着物の着こなしを楽しむ、着物や帯
それではここから、一つ一つのアイテムについて、考えてみましょう。
■小紋
小紋とは、いかにも他所行きの雰囲気のものから、昔なら自宅近辺で着ていたような普段着まで、とても幅の広いもの。判断に迷いがちですが、お茶会で着やすい小紋をあえて大きく二つに分けると、
・色彩が鮮やか、柄がたっぷり等、分かりやすく華やかなもの
・柄に主張がなく、帯の格で着こなしの格が左右されるもの
となるでしょう。
前者の華やか小紋は、着物を着なれない方でも比較的分かりやすいはず。全体に御所解や秋草等の着物らしい柄が描かれていて、無地場があまりないものがその典型です。お茶を習っている方なら、他の方がその着物を普段のお稽古で着た姿を想像してみてください。「今日はいつになく華やかだな」「この後お出かけかな?」と思いそうなら、華やか小紋に当てはまる可能性が高いです。着物自体が華やかなため、似合う帯も自然とそれなりに華やかなものとなり、さほど考えなくてもよそ行き感ある着こなしになるでしょう。
後者は、例を挙げると、全体に絞り、疋田柄(絞りのような柄を型紙で摺って(すって)柄付けしたもの)等が入ったもの。また逆に、古典柄が「飛び柄」といってところどころに配置されたもの(柄は、例えば、七宝、宝尽くし、檜扇、雪輪等)。
こういった着物は、着物自体は小紋だけれどちょっと綺麗め、合わせる帯次第で全体の格、雰囲気が変わるというものです。このような小紋に、格の高い織の名古屋帯を合わせると、なかなかお茶席らしい雰囲気になります。
■紬
紬はあくまでお洒落着、お茶席にはNG、と聞いたことがある方も多いかも知れません。確かに、基本は避けた方が無難と思っておくべきで、「紬でも大丈夫」と明確に言われた場合に限った方が良いでしょう。
周りに確認し、紬を着ることを決めた場合、帯の合わせ方でお茶席らしさを感じさせたいものです。織りの着物には染めの帯とよく言われますが、織り帯がおかしいということは全くありません。砕けすぎない織りの名古屋帯を合わせることで、紬の着こなしを格上げするのはお勧めです。染め帯の場合でも、古典柄等少し格調を感じさせるものが良いでしょう。
■名古屋帯(織りのもの)
一般的には袋帯の方が名古屋帯よりも格が高いとされますが、お茶や着物の先生でも、必ずそう言い切れないとの考えの方がいらっしゃいます。袋帯にも、洒落袋と呼ばれる、カジュアルなものがあることを考えても、袋帯か名古屋帯かで簡単に判断しない方が良いでしょう。また、これは例外的ですが、綴織という織り方の帯は、留め袖に合わせるような格の高いものも多いですが、そもそも名古屋帯に仕立てることが一般的です。
締めてしまうと、袋帯か名古屋帯か(お太鼓が二重か一重か)はそこまで目立たないもの。一般論として、袋帯に格の高いものが多い、袋帯の方が格が高いと考える人も多いことを踏まえつつ、柄を見て考えましょう。お茶席で使いやすいものは、有職文様にもみられるような続き柄、それ以外でも古典文様を織り出したものです。
■染めの帯
織りの帯よりもくだけたものとされる染めの帯、ほとんどが名古屋帯に仕立てられています。「織りの着物に染めの帯」(は比較的合いやすい)と言われることも多いため、染めの着物がメインのお茶の世界では使いづらい、また、そもそも季節柄等が多くて染め帯にはなかなか手が伸びないという方も多いようです。
けれど、絶対に織りで格の高い帯、という場面でなければ、友禅や刺繍ならではの華やかさのある染め帯も、お茶席に華を添え、良いものです。特に、その季節の草花や行事の柄は、見る人の目を楽しませてくれます。
お茶席にしっくりきやすい、格を感じさせる染め帯は、やはり古典柄。例えば御所解、松竹梅、檜扇等。また、金銀糸、金銀箔が使われていたり、色糸でも刺繡が入ったりすると、ぐっと奥行きが感じられる帯となります。似たような柄であれば、柄のボリュームがたっぷりしているものの方が、華やかさや格高さを感じさせることが多いです。
なお、10月は染め帯の季節と言われることもあるくらい、染め帯が似合う季節。袷になったばかりの気候に、優しさを感じさせる染め帯がしっくりくるようです。お茶会も多い季節ですし、もし季節の染め帯をまず一本もとめるなら、この季節に使いやすいものを選ぶのもお勧めです。
最後に
お茶会の定番以外の着こなしも楽しめるようになると、着物の幅がぐっと広がるもの。感覚がつかめるようになるまでは、「失礼にならないだろうか」と心配になることもあるかと思います。ここでお伝えしたことを頭の片隅に置きつつ、お茶会で他の方々の着こなしをご覧になってみてください。
「パステルカラーで柄のない紬だと、意外と綺麗な印象になるかも」「染め帯を一つ紋の色無地と合わせることで、格を保っているのかな」等、気づくことがあるかと思います。そして、是非ご自身でも、定番以外の着こなしも含めて、その日のお茶会に一番合う着こなしを楽しんでください。