色使いに表れる、茶室を彩る伝統色とは?

色使いに表れる、茶室を彩る伝統色とは?
2020年9月13日 Aimu Ishimaru
In 芸術/文化

茶道を嗜む方は「落ち着く」や「心が休まる」といったことを、茶道を続ける理由の一つとしてよく挙げます。茶室に足を踏み入れた瞬間、侘び寂びの美学を体現した静かで簡素な雰囲気が時間に追われる日常を忘れさせるのでしょう。

おしゃれに飾られた洋室とは違った、茶室の独特な雰囲気は、その落ち着いた色使いにあるのではないでしょうか。茶室がカラフルに彩られていたとしたら「ワクワクする」といった感想はあっても、「心が休まる」とは思わないですよね。茶室を考えるときに大事な落ち着いた色使い。その「色」について探っていきましょう。

日本人は繊細とよく言いますが、色彩感覚には日本人のその繊細な感覚が存分に生かされています。鼠色や山吹色など、微妙な色彩の違いを表現した伝統色は海外では見られません。では、日本の伝統色はどのように発展していったのでしょうか?

 

緑は青で青は緑?雑すぎる色彩感覚

日本にはもともと黒・白・赤・青の4色のぼんやりとした概念しかなかったと言われています。しかし、奈良時代、大陸からの染色技術の伝来とともに、五行思想が伝わったことで青・赤・黄・白・黒といった概念が定着しました。

ここでなにか気になりませんか?そう、緑がないのです。絵を描くのに必要な原色を考えたとき、緑は序盤に名前が挙がるであろう必須の色。その緑を表す言葉が昔は存在していなかったのです。

そこで疑問なのが、緑をなんと呼んだかということ。それは信号を考えればわかります。青信号は明らかに「緑」なのに、日本人は「青」と呼びますよね。これは多くの外国人を混乱させる日本語表現の一つでもありますが、実は遥か昔、「緑」を「青」と呼んでいたことに起因しているのです。

 

4色から驚異の発展!自然に溶け込む日本伝統色

さて、そんな風にあやふやだった日本人の色彩表現ですが、平安時代に入ると移り変わる四季の景色や豊かな自然に影響され、日本人独特の色彩感覚は成熟していきました。

色彩感覚の「日本化」を経て、奈良時代に主流だった原色の色使いは、より淡く繊細な中間色に取って代わられることとなったのです。時代とともに、千以上もの日本伝統色が生まれましたが、その多くに動物や草花などの名前が使われています。これはまさに、日本人の自然との共存の歴史を表現しています。

フランスの伝統色と比較してみてください。フランスの伝統色には、ショコラやヴェルサイユなど、独特の芸術や文化に基づく名前が多くつけられています。ここでは、ヨーロッパ中世を生きたフランスの貴族階級が追求した洗練された優美さに気づくことができます。

 

日本伝統色の最終形態「かさね色目」

日本の繊細な色彩感覚が最もあらわれているのが「かさね色目」です。これは特定の色を表すものではなく、複数の色を合わせた配色のことを指します。

かさね色目には、袷の着物のように裏生地を透けて見せることで裏表の混色を作る場合と、十二単のように複数の色をずらして重ねることで色の層を作る場合とがあります。

いずれの手法でできた配色にも、それぞれ「桜」や「落栗色」など季節感のある名前がつけられています。平安時代の宮中女性たちは、季節にあった色鮮やかな着物を楽しんでいたのです。

 

茶室で生まれた侘び寂びの色

茶道の世界とも伝統色は切り離せないものです。お抹茶と一緒にいただく和菓子や茶道具には季節感あふれる伝統色が使われており、茶室の色味からは素材を生かしたシンプルで淡い日本独特の感性が窺えます。数ある日本伝統色の中から、そんな茶室で生まれたものはあるのでしょうか?

茶道から生まれた伝統色はいくつかあり、動植物などが由来であるものが多いなか、非常に珍しいものです。なかでも一番分かりやすいのが「抹茶色」です。茶道が広く普及した江戸時代に成立した伝統色で、その歴史は比較的浅いと言われています。

また、日本における茶道の立役者・千利休の名を使った伝統色も多くあります。例えば、緑がかった薄茶色の「利休茶」、それを少し薄くした「利休白茶」、そして緑がかった灰色の「利休鼠」などです。どれも侘び寂びを感じられる控えめな色といえます。

 

伝統色を楽しもう!

今となっては、平安時代の宮中女性のように、季節感あふれる着物を着る機会は少ないかもしれません。しかし、洋服にもお部屋のコーディネートにも、季節感あふれる伝統色とその由来を少し意識することで日本らしさを感じることができるのではないでしょうか。

茶道を嗜む人は、季節の茶器や和菓子、茶室に使われている色味にも目を向けてみてください。いつもと違った楽しみ方ができるかもしれません。