「生け花を始めてみたいけれど、何から学べばいいかわからない…」そんな風に感じたことはありませんか?
生け花は、ただ花を器に挿すだけではなく、植物との対話や、美しさを追求する奥深い芸術です。今回は、華道の流派として知られる池坊の「花伝書」から、生け花を学ぶうえで大切にしたい心得をご紹介します。
初心者の方でも実践できる考え方ばかりなので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
花伝書とは?生け花の知恵が詰まった伝統の書物

花伝書とは、生け花の生け方や、関連する知識を伝える目的を持つ書物になります。現在、最古といわれる花伝書は1486~1499年までの室町時代に書かれた、当時の生け花を記した「花王以来の花伝書」というものになります。
この記事では花伝書の中でも、昭和49年 華道家元池坊総務所より発行、華道家家元45世 池坊専永さんによって書かれた、花伝書「入門」「初級」「中級」「上級」の4巻から、池坊を学ぶうえで大切な心得をピックアップしてお伝えします。花伝書「入門」「初級」「中級」「上級」は池坊を習い始めた人や、初めて数年経過した人に配布される書物で、学ぶうえで大切にしたい意識や考え方が、優しい言葉で書かれています。
先生から学ぶときに意外と見落としがちなポイント
お稽古に通い始めると、礼儀や謙虚さ、月謝のお支払いといった基本的なマナーは自然と身につきますよね。でも、花伝書「入門」には、もっと大切なことが書かれているんです。
それは先生による「手直し」の見方についてです。
先生から生け花の手直しを受けた際、私たち生徒は思わず、ただ直された部分ばかりを見てしまうのですが、花伝書は「先生の手直しは、草木の扱い、手の使い方などを見て、言葉では表現できない、高度な技法を読み取ろうとすることが大切。」と述べ、直された部分だけでなく、先生が言葉では伝えきれない動きや所作の部分も、しっかり見て学ぶようにと伝えています。
植物に対する3つの大切な心得

生け花に欠かせない植物。色とりどりで形も様々な植物たちと、どう向き合えばいいのでしょうか?花伝書「入門」「初級」から、3つの心得をご紹介します。
1. 植物の背景と個性を大切にする
植物は、それぞれ違った環境で育ち、一つひとつに特性があります。
たとえば、山に咲く花と庭に咲く花では、育った環境がまったく違いますよね。そうした植物の背景を無視して生けてしまうと、その花本来の良さが損なわれてしまうんです。
植物を「色や形のある素材」として見るのではなく、どんな性質を持ち、どんな場所で育ってきたのかを想像しながら生けること。そのためにも、それぞれの植物に関心を持ち、よく知ることを心がけましょう。
2. 植物は生きているということを忘れない
植物は一見静かに見えますが、内側では常に変化し続けている生き物です。
花が咲くタイミング、枯れていくタイミングは、人間の思い通りにはなりません。でも、植物へ関心を持ち、知識を深め、寄り添う意識を持つことで、少しずつ通じ合えるようになっていきます。
植物との対話を楽しむ……そんな気持ちで向き合ってみてはいかがでしょうか?
3. 生命と個性を尊重する
生け花を生けるときには「こう表現したい」という目的や想いがありますよね。
でも同時に、扱う植物の一つひとつが生命であり、個性を持っていることも忘れてはいけません。自分の表現と、植物の持つ美しさ。その両方を大切にすることが、生け花の魅力なんです。
生けること・鑑賞することへの心構え

生け花は「生けること」だけでなく、「鑑賞すること」も大切な学びの一つ。ここでは、表現する側と鑑賞する側、両方の視点から心得をお伝えします。
自然への関心と親しみが基礎
花を生けるための基礎は、テクニックの前に「心」にあります。
自然への関心を持つこと、親しみを感じること。そして「人も花も同じ生き物で、同じ時間を生きている」という意識を大切にすること。この心構えがあってこそ、植物の美しさを引き出せるのですね。
省略することの意味
生け花は、たくさんの種類や本数を生けるだけが表現ではありません。
時には「省略する」という選択もあります。生ける花の種類や本数を少なくすることで、逆に植物の本質が際立ち、より深い表現につながることも。
引き算の美学とでも言うのでしょうか。シンプルだからこそ伝わる美しさがあるんです。
鑑賞するときは生けた人の想いに寄り添う
自分が生けた花に想いを込めるように、人が生けた花にも、それぞれの想いが込められています。
生け花を鑑賞するときは、生けた人の心と、鑑賞する人の心が通じ合うように心がけることが大切。「どうしてこの花を選んだのかな?」「どんな想いが込められているんだろう?」と想像しながら見てみると、新しい発見があるかもしれませんね。
生け花を続けることの大切さ

花伝書には、生け花を学ぶ人たちを励ましてくれる言葉もたくさん書かれています。最後に、生け花を続けたくなる心得を2つご紹介しますね。
器用でなくても、続ければ趣深い作品が生まれる
歴史的な花伝書からの引用として、こんな言葉があります。
「たとえ器用でなくても、稽古を真剣に続けていれば、趣深い生け花の姿を生み出すことができます」
最初から上手にできなくても大丈夫。続けることで、あなただけの表現が生まれてくるんです。
驚きと発見の連続が、生きる喜びにつながる
目に見えないものに触れることは、これまで気づかなかった物事をじっくり見つめる機会。それは驚きであり、発見でもあります。
生け花を生けるということは、そんな驚きや発見を経験する道。
無限に続く驚きと発見は、「生とは何か」を知ることにつながり、生きるうえで自分以外の他者(植物も含めて)のことも大切にしたいという想いへと広がっていきます。
美しく生けるための5つの心得

より美しい生け花を生けるために、普段からどんな心構えを持てばいいのでしょうか?花伝書「上級」を中心に、5つの心得をご紹介します。
1. 物の見方を磨く
生け花を生ける人は、「どのように物を見るか」という視点も大切にしたいもの。
たとえば、自然の中で植物の姿を見て感動する体験。一つの物を深く見つめて、その本質を見ようとすること。こうした「見る心」を養うことが、表現の豊かさにつながります。
2. 素直な心で美しさを感じる
見る人の目を意識して装うことも大切ですが、それと同じくらい大切なのが、植物の姿をただ「美しい」と感じる心。
その素直な気持ちを、そのまま表現することも忘れないでくださいね。
3. 「真の美しさ」を考え続ける
「真の美しさとは何か?」——この問いに、簡単な答えはありません。
流行に流されず、自分なりの美しさを追求し続けること。自問自答を繰り返し、学び続けることが、生け花を深める道なんです。
4. 思い通りにならないことから学ぶ
人は、思い通りにならないものに触れることで成長します。
生け花では、植物が思った方向に曲がってくれなかったり、イメージ通りの姿にならなかったり…そんなことの連続。でもその経験を通して、植物の想いを知り、それを生かしていくことで、自分も成長できるんです。
そしてその成長が、心を美しく変化させてくれると考えられています。
花伝書の教えで、もっと生け花を楽しもう
いかがでしたでしょうか?生け花を学ぶ上で、難しいと思う事も少なくありません。しかし花伝書に書かれた言葉を通して「そういうことだったのか」と思えることもあります。是非、この記事が、生け花、池坊へ関心を持つ機会、お手元にある花伝書を読んでみよう、読み直してみようと思える機会に繋がりましたら、幸いです。



