茶人によって長い時間をかけ、磨き上げられた伝統の茶花も、現代の暮らしの中で見かけるさまざまな形の花も、わたしたちの生活に心の潤いを与えてくれる美しい暦です。
一年を通して茶席に暮らしに、自然の息吹を伝えてくれる花の姿と、その入れ方、椿、木槿など代表的な茶花の扱い方をきめ細かくご紹介します。
季節の床の花とその入れ方
■開炉
白玉椿
万作照葉
炉開きの後入りの花はこの2つ。炉開きは茶の世界では祝い事として扱います。
昨今ではこのめでたい行事に紅白祝いの意味を持たせて2種の椿を入れたり、紅葉した照葉を使うことが多くなってます。
■初冬
白玉照葉
寒菊
寒菊と紅葉した枝を取り合わせてみましょう。壁の色と調和する形でお花の色が映えるとより凛とします。
寒菊の使い方も、枝一本を使うのではなく、十分に挿して枝をさばいて入れてあげると良いです。
照葉を少し残すことで初冬感が引き立ちます。
■歳暮
白玉照葉
寒菊
蝋梅
聖母の花としては、照寒菊をメインに、白玉椿を一輪添えて外の寒さを一刻忘れさせてくれます。
蝋梅は12月なら葉が1枚2枚残っているものを使うと歳暮の詫びた風情を出すことができます。
1月に入ったら、黄葉した葉が落ちて春を待つ花が2、3輪咲いたものを使うと季節感が出てきます。
■正月
天ケ下椿(あまがしたつばき)
衝羽根(つくばね)
正月初釜の床飾りとして、必ずしも綰柳(わんりゅう)を使う決まりはありません。
正月の儀式らしく、唐銅の花入を使い、そこに椿の今にも開花しようとするふくらみのある蕾と、衝羽根をやや高く生けてみてはどうでしょうか。
枝ものが細いため、椿は蕾のかたいものではなく、移ろいのある膨らみ具合の良いものを使うと◎
他にも水仙や雲龍梅なども、早春の栄えをもてなす茶事の折に、中立の後入りの席の花としても使われます。
■春の訪れ
鴫立沢椿(しぎたつさわつばき)
岩根絞り椿(いわねしばりつばき)
黒猫柳(くろねこやなぎ)
早春のこの時季は、柳の枝の生長を表すために、のびのびとした姿の枝を使うことでその印象がより増します。
椿の花の蕾も大きいものを使って春の豊さを表現します。
■雛の花
桃(もも)
菜の花(なのはな)
3月3日は重三と言って五節句の一つで上巳(じょうし)ともいいます。上巳は3月の初めの巳の日を指します。
3月3日に桃の花を使うことは「荊楚歳時記」という中国の古い文献に記載のある、3月に行われる不祥をはらう行事の際に桃の花が使われたことに由来しています。
今日では新暦の3月3日から旧暦の4月まで、桃の花を賞して床の飾りがなされています。
桃の花と菜種の黄色の取り合わせは春を象徴する美しい色合いです。
■仲春
菊椿(きくつばき)
朴伴錦椿(ぼくはんにしきつばき)
雲龍柳(うんりゅうやなぎ)
春に入ると日毎に暖かくなってきます。
この時期には磁器のの花入を使ってお花を入れると◎
寒い時季には青磁や染付などを使うとひび割れが生じやすく、見た目にも冷たい感じがするからです。
雲龍柳の枝は竜のような動きがあり、それを取り入れながら自由に入れます。
白と赤の椿でコントラストをつけて冬から春への到来を告げるような入れ方がおすすめ!
■晩春
山芍薬(やましゃくやく)
山芍薬は花が一重でやや小さく、色も白花のみなので、清楚は茶花にふさわしいです。
周りが緑の色を増す時季に、純白の花の美しさはまた格別で、一輪のみでも席中を凛とさせる雰囲気を持っています。
唐銅花入などに多く取り入れられますが、親しみやすい竹円窓に、緑の葉を生かしながら花を中心に立てて入れると良いでしょう!
■初夏
姫百合(ひめゆり)
小額空木(こがくうつぎ)
白糸草(しらいとそう)
姫檜扇(ひめひおうぎ)
初夏ともなると、草花が色々な姿で花を咲かせ、種類も多くなり、どの花を入れようか迷うこともあります。
大輪、大葉の花を入れる場合は、大きな力強い花入もいいでしょう。
このように初夏の花を色々と併せて使うときは、籠花入の優しさのあるものが映ります。
杜若(かきつばた)
杜若も初夏のお花にぴったり!水際をたっぷり見せるような花というのも、暑い季節ならではの趣向と言えます。
花入は大鉢な古染付もので爽やかさを表現してみましょう。
杜若を茶席の床に入れるときは、生花のような格別の約束ごとに拘らず、湖に自生する姿を思い浮かべて自然に入れるのが良いでしょう。
水際に根元を据えて前葉を多く、徐々に奥に立てて入れ、その葉の間から紫紺の花がわずかに顔をのぞかせるようにします。
また茶席の花は、重心を低くして安定感を持たせることも心得の一つ!
■盛夏
鷺草(さぎそう)
縞葦(しまあし)
夏祭りなどの夏らしさを表すのに涼感を呼ぶガラスの器を使ってお花を入れてみましょう。
爽やかな縞葦と、鷺草のような線の細いものんは相性がいいです。
縞葦は文字通りに「縞模様のある葦(あし)」を指し、自然素材の美しさとシンプルさを茶道の空間に取り入れることを意味します。
■晩夏
木槿(むくげ)
白花桜蓼(しろはなさくらたで)
芒(すすき)
晩夏になると、色々な秋草が山野に咲き始めます、
そんな中で、夏の残花も味わい深いものです。
例えば真夏の木槿には勢い盛んな美しさがありますが、夏の終わりから初秋にかけて咲いている木槿も格別な味のある風情をしています。
木槿と、初秋に咲く白花桜蓼や芒で夏から秋への移ろいを表現できます。
■秋立つ
秋明菊(しゅうめいぎく)
秋の野の花の中で、秋明菊はひときわ位の高い花です。
群れ咲いている中に秋明菊を一輪入れるだけで、このお花の清らかさが引き立ちます。
秋明菊と他の花を取り合わせる場合は、秋明菊の清楚な姿をより生かすために、高く咲き誇るように扱うと効果があります。
花入も、秋明菊の高さに合わせてつくるところもポイント。
■仲秋
萩(はぎ)
桔梗(ききょう)
女郎花(おみなえし)
男郎花(おとこえし)
吾亦紅(われもこう)
芒(すすき)
月見の頃には秋の七草も咲き、情緒を醸し出してくれます。
秋の七草の中でも一番に挙げられるのが萩の花です。
萩の花は一枝だけで表現するものではなく、1本2本を思い切って使い、花入の大きさに応じてハサミを入れると良いでしょう。
また、萩の動きの中で桔梗の白をポイントに、秋草を散りばめて使うと秋らしさが際立ちます。
■晩秋
桔梗(ききょう)
葉鶏頭(はげいとう)
吾亦紅(われもこう)
竜胆(りんどう)
秋明菊(しゅうめいぎく)
杜鵑草(ほととぎす)
藤袴(ふじばかま)
水引(みずひき)
苅萱(かるかや)
広間の席で晩秋を表すお花を入れる時には、大ぶりの花入を使い、彩りで秋を出せるようにします。
晩秋のお花となると、大方は数多く入れるような工夫をするのが一般ですが、大輪のお花があれば、そのほかはお花の本数を少なくしてスッキリさせることです。
葉鶏頭は葉っぱが大きいので、取り合わせるお花は秋の花の中でもやや細めのものがおすすめです。